マウスピース矯正は、目立ちにくく多くの方に人気の歯列矯正治療です。
しかし、実はすべての人がマウスピース矯正できる訳ではありません。
歯並びの状態や口腔内の健康状態、生活習慣など、様々な要因によってマウスピース矯正が適さないケースがあります。
この記事では、歯科医師の視点から、マウスピース矯正ができない6つの代表的な例を詳しく解説します。
重度の歯列不正や顎関節症の有無、年齢による制限など、治療を始める前に確認すべきポイントを分かりやすく説明していきます。
あなたがマウスピース矯正の対象となるかどうか、まずはチェックしてみてください。
マウスピース矯正ができない例とは
マウスピース矯正とは?
項目 | 内容 |
---|---|
治療期間 | 約12〜24ヶ月 |
装着時間 | 1日20〜22時間 |
交換頻度 | 2週間に1回程度 |
健診頻度 | 1〜2ヶ月に1回 |
マウスピース矯正は、透明な専用マウスピースを使って歯並びを整える矯正治療の一つです。
ワイヤー矯正と異なり矯正が目立ちにくく取り外しが可能なため、日常生活への影響が少ないのが特徴です。
治療では、3Dスキャンで作成した複数のマウスピースを2週間ごとに取り替えながら、少しずつ歯を理想の位置に動かしていきます。
1日20〜22時間の装着が基本となり、食事や歯磨き時以外は常時装着する必要があります。
マウスピース矯正が向かない人がいるのはなぜ?
マウスピース矯正は一定の方向と力で徐々に歯の移動を行うため、複雑な歯の動きや大きな移動が必要な場合には適していません。
また、歯の移動には健康な歯周組織が必要で、歯や歯茎の状態も重要な要素です。
さらに、決められた装着時間を守る生活習慣や自己管理能力も必要になるため、必ずしも全ての人にマウスピース矯正が適しているとは言えません。
マウスピース矯正ができない6つの例
1. 重度の歯列不正がある場合
状態 | マウスピース矯正 | ワイヤー矯正 |
---|---|---|
叢生6mm未満 | ◯ | ◯ |
叢生6mm以上 | △ | ◯ |
歯の傾斜30度以上 | × | ◯ |
埋伏歯がある | × | ◯ |
過蓋咬合(深い噛み合わせ) | △ | ◯ |
重度の歯列不正は、マウスピース矯正が適さない代表的な例の一つです。
重度の歯列不正には、いくつかの明確な基準があります。
最も重要な基準は、歯が密集して重なっている状態を示す「叢生(そうせい)」です。
叢生が6mm以上ある場合は重度と判断され、マウスピース矯正での治療が困難とされています。
また、歯の傾き具合も重要で、前歯が30度以上、奥歯が20度以上傾いている場合は、マウスピース矯正での改善が難しいとされています。
そのほか、上下の歯が深くかみ合っている状態や、歯が大きく回転しているケース、奥に埋まったままの歯がある場合なども、マウスピース矯正が適さない代表的な例です。
このような場合は、従来のワイヤー矯正か、ワイヤー矯正とマウスピース矯正を組み合わせた治療法がおすすめです。
2. 顎関節症の症状がある場合
症状の種類 | 具体的な症状 | 注意レベル |
---|---|---|
痛みの症状 | ・顎の関節の痛み ・噛むときの痛み ・頭痛や首の痛み | 要注意 |
音の症状 | ・顎を動かすときの音 ・カクカクという音 ・ポキポキという音 | 要確認 |
動きの症状 | ・口が開きにくい ・口が閉じにくい ・顎が固まる感覚 | 要注意 |
顎関節症は、あごの関節やその周囲の筋肉に痛みや違和感が生じる症状です。
歯並びの悪さが原因で顎関節症を発症することもあれば、顎関節症が歯並びに影響を与えることもあります。
マウスピース矯正では、マウスピースを装着することで噛み合わせや顎の位置が少し変化するため、すでに顎関節症の症状がある方は特に注意が必要です。
顎の関節に負荷がかかっている場合はマウスピース矯正をすることで顎関節症が悪化したり、顎関節の痛みでマウスピースの装着が難しくなる可能性があるからです。
症状によっては、マウスピース矯正を始める前に顎関節症の治療が必要となることがあります。
3. 虫歯や歯周病がある場合
マウスピース矯正前の口腔内チェックリスト
- 1. 虫歯のチェック
- 痛みや詰め物の緩みがないか
- レントゲンで見えない虫歯がないか
- 神経治療の必要性がないか
- 2. 歯周病のチェック
- 歯ぐきの腫れや出血がないか
- 歯周ポケットの深さは正常か(3mm以下が望ましい)
- 歯のグラつきはないか
- 3. 口腔衛生状態のチェック
- 歯磨きは適切にできているか
- 歯垢や歯石の付着はないか
- 口臭の有無
マウスピース矯正は歯を移動させるために一定の力を歯に加えるので、土台となる歯や歯ぐきの健康状態が非常に重要です。
虫歯や歯周病がある状態で矯正治療を始めると、歯の移動により症状が悪化したり、治療効果が十分に得られない可能性があります。
特に歯周病がある場合は、歯を支える骨が弱くなっているため、矯正治療による負担で歯が緩んでしまうリスクもあります。
そのため、マウスピース矯正を始める前には、必ず虫歯や歯周病の治療を完了させる必要があります。
まずはご自身に虫歯や歯周病がないかチェックし、必要に応じて医師に診てもらいましょう。
4. 年齢による制限がある場合
年齢層 | 適応可否 | 主な特徴・注意点 |
---|---|---|
小学生以下 | × | ・永久歯の生え変わり途中 ・歯の移動が活発で予測が困難 ・装着管理が難しい |
中高生 | △ | ・永久歯の生え揃いを確認 ・成長に合わせた治療計画が必要 ・装着の習慣化が重要 |
成人 | ◯ | ・最も一般的な対象年齢 ・自己管理がしやすい ・治療効果が安定 |
高齢者 | △ | ・歯周病のリスク評価が重要 ・骨の代謝が遅い ・基礎疾患の確認が必要 |
マウスピース矯正は、年齢によって適応の可否や治療アプローチが異なります。
歯の移動のしやすさや口腔内の状態は年齢とともに変化するため、それぞれの年代に応じた適切な治療計画が必要です。
一般的に、永久歯が生えそろう12〜13歳以降が治療開始の目安となりますが、個人差も大きいため、実際の口腔内の状態を確認する必要があります。
また、高齢者の場合は、歯周病のリスクや骨密度の低下など、年齢特有の注意点があります。
5. 特定の歯の動きが必要な場合
動きの種類 | 難易度 | 代替治療法 |
---|---|---|
歯の圧下(歯を歯ぐきの中に押し込む) | 非常に困難 | ワイヤー矯正 |
歯の大きな回転(20度以上) | 困難 | ワイヤー矯正または併用療法 |
臼歯の後方移動 | 困難 | ワイヤー矯正+補助装置 |
歯根の移動を伴う治療 | 非常に困難 | ワイヤー矯正 |
マウスピース矯正では対応が難しい特定の歯の動きがあります。
上記の表のような歯の動きには、より確実な力による矯正が必要となるため、従来のワイヤー矯正が適している場合が多いです。
主な例として、奥歯を後ろに下げる必要がある場合や、歯を垂直に立てる必要がある場合、また大きく回転している歯を正しい位置に戻す必要がある場合などが挙げられます。
不安な場合は専門医に相談し、3Dシミュレーションなどで歯の動きを分析してもらい、最適な治療方法を提案してもらいましょう。
6. 生活習慣による制約がある場合
生活習慣チェックリスト
- 1. 食生活のチェック
- 規則正しい食事時間が確保できるか
- 頻繁な間食の習慣はないか
- 食後の歯磨きが実践できるか
- 2. 日常生活のチェック
- 20~22時間の装着時間が確保できるか
- 外出先での歯磨きが可能か
- マウスピースの洗浄・管理ができるか
- 3. 仕事・趣味のチェック
- 定期的な通院時間が確保できるか
- 頻繁な飲食を伴う仕事ではないか
- 激しい運動や接触の多いスポーツをしていないか
マウスピース矯正の成功には、1日20~22時間の装着時間を確保することが不可欠です。
歯を移動させるために必要な最低限の時間であり、装着時間が不足すると治療効果が得られないだけでなく、歯の動きが不安定になるリスクもあります。
食事や歯磨き以外の時間は常にマウスピースを装着する必要があり、この習慣を1年半から2年程度維持することになります。
自己管理が治療の成否を大きく左右するため、ご自身のライフスタイルと治療の相性を事前に確認することが重要です。
マウスピース矯正の適性を確認する方法
マウスピース矯正適性チェックリスト
- 1. 口腔内の状態
- 重度の歯列不正はないか
- 顎関節の違和感はないか
- 虫歯や歯周病の治療は済んでいるか
- 2. 年齢と成長
- 永久歯は全て生えそろっているか
- 顎の成長は安定しているか
- 基礎疾患はないか
- 3. 生活環境
- 定期的な通院は可能か
- 治療費用の準備はできているか
- 装着時間は確保できそうか
マウスピース矯正が自分に適しているかどうかを知るためには、まず歯科医院での専門的な診断が必要です。
専門医による診査では、レントゲン検査や口腔内の詳細な検査、顎の状態のチェックなど、多角的な視点から治療の可否を判断します。
また、3Dスキャナーを使用した最新の診断技術により、より正確な治療計画を立てることができます。
しかし、歯科医院に相談する前に、ご自身である程度の適性を確認することも可能です。
上記のチェックリストを参考に、ご自身がマウスピース矯正に適していそうか事前に確認してみましょう。
よくある質問
- マウスピース矯正ができない場合の代替治療法は?
- マウスピース矯正が適さない場合でも、歯列矯正が可能な治療法はあります。最も一般的なのはワイヤー矯正で、幅広い症例に対応できます。
また、部分矯正や、マウスピースとワイヤーを組み合わせた治療法など、症例に応じて様々な選択肢があります。
専門医と相談することで、最適な治療法を見つけることができます。
- 治療前に必要な準備は何ですか?
- 治療前の準備として、主に虫歯や歯周病などの治療が必要です。また、レントゲン検査や3D診断による詳細な検査も行われます。
生活面では、規則正しいマウスピースの装着習慣を身につけるための準備や、必要な歯磨きグッズの準備も重要です。
治療費用の準備や、定期的な通院時間の確保についても事前に検討しておきましょう。
- 費用面での考慮点は?
- 費用は症例の難易度や治療期間によって異なります。また、事前治療や定期的なメンテナンス費用なども考慮が必要です。
医療費控除の対象となる場合もあるので、医院でよく確認することをお勧めします。
なお、多くの医院では分割払いやデンタルローンなどの支払いプランが用意されているので、ご自身の予算に合った支払い方法を選びましょう。
- 治療期間はどのくらいですか?
- 標準的な治療期間は1年半から2年程度ですが、症例によって異なります。軽度な歯列不正であれば1年程度で終了する場合もありますが、複雑な症例では2年以上かかることもあります。
また、事前治療が必要な場合は、その期間も考慮する必要があります。
装着時間や通院の順守度によっても治療期間は変動します。
- 定期的なメンテナンスは必要ですか?
- 定期的なメンテナンスは必要不可欠です。通常1〜2ヶ月に1回の定期検診があり、歯の動きの確認や新しいマウスピースの受け取り、口腔内の健康状態のチェックを行います。
また、治療終了後も歯並びを維持するために、リテーナー(保定装置)の使用と定期的なチェックが必要です。
まとめ
この記事では、重度の歯並びの乱れがある場合や、顎が痛む方、虫歯や歯周病の治療が必要な方など、マウスピース矯正を始める前に確認すべき6つのポイントをご紹介しました。
しかし、これらに当てはまるからといって、歯列矯正をあきらめる必要はありません。
歯科医療の技術は日々進歩しており、従来の矯正装置との組み合わせなど、様々な治療方法が選べるようになってきています。
まずは気軽に矯正歯科を受診して、ご自身に合った治療法を見つけてみてください。